彼女の顔を観察しているうちに、なぜこの人の顔はこういうかたちにできあがったのだろう、だれが決めたのだろうという疑問がぼくの頭に浮かんだ。もちろんぼくは遺伝子が顔のかたちを決めていることを知っている。
でもぼくが本当に知りたいのはそういうことではないのだった。
ぼくはなぜお姉さんの顔をじっと見ているとうれしい感じがするのか。
そして、ぼくがうれしく思うお姉さんの顔がなぜ遺伝子によって何もかも完璧に作られて今そこにあるのだろう、ということが僕は知りたかったのである。
(ペンギン・ハイウェイ 森見登美彦)